Consciousness disorders and dementia : progress in diagnosis and treatment. 1. Consciousness disorders. 5. Consciousness disorders in the elderly. 3. Electrolyte imbalances and consciousness disorders


Saito, T

Nihon Naika Gakkai Zasshi 79(4): 457-462

1990


トビッ
意識障害と痴呆:診断と治療の進歩
I
.意識障害
5
.高令者の意識障害
3
)電解質異常と意識障害
斎藤
寿ー*
高令者では,水や電解質の恒常性維持機能の低下があり,Na
やCa
などの電解質代謝の異常は
しぱしば意識障害を招く.一方,意識障害は水やNa
の自発的摂取を低下させ,脱水やNa
欠乏を
伴った病態を維持,増悪させ,悪循環に陥ることも少なくない.特に低Na
血症では治療上,水
制限の有効性を予見する上で,その病態診断が重要であるI
〔日内会誌
79
:
457
-462
,
1990D
電解質異常を伴った意識障害には,
Na
やCa
どの血清濃度異常の結果として発生するものと,
意識障害の結果として飲水量やNa
摂取量の低下
を来して発生する電解質異常の二つの側面があ
る.
これら二つの病態は,一旦発生するとしばし
ば併存して,それぞれが原因となりあって悪循環
を形成する場合が少なくない.
電解質異常は原疾患の随伴症状として現れるこ
とが多く,意識障害を伴った電解質異常の診療に
あたっては,両者がどのような因果関係にあるか
を明らかにすると共に,異常の原因となる中枢神
経,内分泌腺,腎の病変,あるいは薬物副作用を
始めとする医療上の処置が原因となっている可能
性を検索することが,治療の選択にも必要である‘
1.
Na
代謝異常
1
)低Na
血症
(1
)原因
血清Na
濃度が正常下限,
135mEq
/
1
を下回った
状態で,原因としては表1
に示す病態がある.低
Na
血症には体内のNa
の欠乏と同時に水の欠乏を
伴った脱水型と,Na
の欠乏は認めないものの水の
貯留過剰により発生する場合とがある.
*さいとう
としかず,
自治医科大学内科
①Na
欠乏型
全身Na
の低下と脱水を伴う低Na
血症は,食欲
低下や悪心,咽吐による食塩摂取量の減少,副腎
皮質機能低下症,低レニン性低アルドステロン症,
塩類喪失性腎炎などにおいて認められ,特に腎に
おけるNa
保持力が低下する高令者においては脱
水傾向を伴ったNa
欠乏型の低Na
を来しやすい.
②水過剰型
脱水を伴わない低Na
血症としては,抗利尿ホル
モン(ADH
)の過剰に由来した水の貯留で発症す
るSIADH
(secretion
of
inappropriate
ADH
)が
あり,
また輸液過剰による水負荷により医原性に
発生する低Na
血症も高令者の診療において十分
留意すべき点である.SIADH
125mEq
/l
を下回
る低Na
血症の約50
%をしめ,その原因としては表
2
に示すごとく,小細胞癌などの異所性ADH
産生
腫瘍によるものと下垂体後葉よりの内因性ADH
分泌亢進によるものとがある.内因性ADH
の分泌
亢進を来すのは髄膜炎やくも膜下出血などの中枢
神経系疾患と肺炎,肺結核などの胸腔内疾患が主
たるものである.SIADH
には含まれない浮腫性疾
患に伴う低Na
血症は体内水分量の分布異常を
伴って発症し肝硬変症,
ネフローゼ症候群および
うっ血性心不全において出現することがある,
(2
)病態
低Na
血症は血清中のNa
と水の比の低下で,相
(35
日本内科学会雑誌
第79
第4
号一平成2
年4
月10
458
表1
.低Na
血症を来す疾患
脱水あり
脱水なし
に由来するものがある.通常は全体水分量の減少
も合併しているもののNa
の低下がより顕著で低
Na
血症を来す.脱水と循環血液量の低下に由来し
た症状や検査成績が認められる.
この病態に伴う
意識障害は低Na
血症によっておこされるが,意識
障害のある症例では食塩摂取量の不足から,逆に
Na
欠乏型の低Na
血症を来すことが多い.
②水過剰型
全体水分量の低下を伴うことなく,低Na
血症を
来した状態でSIADH
と浮腫性疾患の二つが主要
なものである.
SIADH
は水過剰による希釈性の血清Na
濃度低
下であり,循環血液量の増加傾向によるNa
利尿の
亢進が低Na
血症の存在下でも尿中Na
の排泄を持
続させる(図1
).浮腫性疾患に伴う低Na
血症で
は,全体Na
量はむしろ増加している一方,水貯留
はそれを上回っておりまた尿中Na
排泄量も低下
している.浮腫性疾患では有効循環血液量が低下
しているため,血漿レニン活性と7
ルドステロン
濃度は上昇して二次性アルドステロソ症となって
おり,またADH
分泌も亢進していて水排泄障害の
原因となっている.
(3
)症状
低Na
血症の症状は神経,筋の被刺激性亢進と意
識の低下が主体となる.症状の強さは主として血
清Na
濃度の水準とそこに至る速度によって決定
される.Na
濃度125mEq
/
1
以上の比較的軽度の低
Na
血症では,脱力感,食欲低下を示すに止まるこ
とが多い.血清Na
がllOmEq
/l
に至ると傾眠,筋
座李を来すことがあり急速にさらに低下すると昏
睡や全身の座李などの水中毒とよぱれる症状を来
す.
Na
欠乏型では皮膚,粘膜の乾燥,脈拍の緊張低
下,血圧低下,頻脈などの所見が認められる.水
過剰型のうち,
SIADH
では浮腫は認められず皮
膚,粘膜は湿潤状態にあり血圧や脈拍緊張の低下
はみられない,浮腫を伴ったうっ血性心不全や肝
硬変における低Na
血症は軽度のことが多い.単独
で精神,神経症状を招くことはまれであるが,肝
不全における意識障害の増悪因子となりうる.
(4
)診断
低Na
血症の存在は通常の血清電解質検査に
よって明らかとなる.意識障害のある症例で血清
SIADH
心因性多飲症
低張輸液過剰
うっ血性心不全
非代償期肝硬変
ネフローゼ症候群
副腎皮質機能低下症
低レニン性低アルド
ステロン
選択性低-7
ルドステ
ロン症
偽性低.7
ルドステロ
ン症
利尿薬使用
唱吐
下痢
摂食不能
発汗過多
表2
.
SIADH
をきたす原疾患
1
.悪性腫瘍
十二指腸癌
胸腺腫
内皮腫
尿管癌・前立腺癌
Hodgkin
Ewing
肉腫
2
.中枢神経疾患
髄膜炎
頭部外傷
脳膿瘍
脳腫瘍
脳炎
Guillain
・Barr
症候群
急性ポルフィ
リア
くも膜下出血
脳萎縮
海綿静脈洞血栓
新生児低酸素血症
水頭症
Shy
-Drager
症候群
delirium
tremens
3
.肺疾患
肺結核
気管支喘息
肺アスペルギールス症
陽圧呼吸
4
.薬
パソプレッシン
オキシトシ;/
vincristine
chiorpropamide
thiazide
phenothiazine
MAO
抑制薬
carbamazepine
clofibrate
nicotine
5
.急性精神病
6
.手術後
7
.
“特発性”
対的な水過剰状態であり高度となると脳圧の亢
進,脳細胞からのNa
,K
の脱出を招き機能障害を
招く,成因により低Na
血症を発症,維持させる機
構が異なる.
①Na
欠乏型
全体Na
量が低下した病態で,Na
摂取の低下,n
吐など消化管の異常に伴うもの,発汗過多など腎
外性喪失によるもの,腎性に尿中へのNa
排泄亢進
日本内科学会雑誌
第79
第4号・平成2年4
月10
(36
)
459
表3
.
SIADH
の診断基準
傷ー→一ADH
分泌過剰
iphenyihydantoin
deinethyichior
-
tetracycline
.
litium
腎の水再吸収促進
h
水持続
―体液量増大
近位尿細fI
\×
ナトリウ
糸球体疎過量
renin
,
aldosterone
抑制
ム再吸収
増大
抑制
水制限
H
ナト
」!ウム利尿
I
mineral
ocort
icoi
d
ム補給
、、.ー――一-低ナトリウム血症
図1
.
SIADH
の低ナ
トリウム血症(発現機序と治療)
Na
濃度が120mEq
/
1
を下回っていれば,低Na
血症
が意識障害増悪因子となっている可能性が強い.
低Na
血症の病態を診断することは,特に治療の選
択上重要である.
①Na
欠乏型
皮膚,粘膜の乾燥,血圧の低下,頻脈などの循
環血流量低下と脱水の所見を認める.検査上,ヘ
マトクリット値と血奨蛋白濃度の相対的高値,血
奨レニン活性,血奨アルドステロン濃度および血
奨ノルアドレナリン濃度の上昇が認められる,尿
中Na
排泄量は,低Na
血症の原因による鑑別上重
要である.食事摂取の低下,咽吐,下痢,輸液不
足などによるNa
欠乏状態では尿中Na
排泄量は1
日20mEq
以下
と著しく低下する.一方,副腎皮質
機能低下症,低レニン性低アルドステロン症,偽
性低アルドステロン症,塩類喪失性腎炎などの病
態では低Na
血症の存在にもかかわらず,尿中へは
1
日50mEq
以上のNa
が排泄
される.
②水過剰型
皮膚,粘膜は湿潤しており,血圧の低下はない.
SIADH
の診断基準は表3
に示す.尿中Na
排泄は
低Na
血症の存在にもかかわらず1
日20mEq
以上
が持続し,尿浸透圧は血奨浸透圧を上回る.
この
条件下でしかも腎と副腎皮質の機能低下は認めら
必要所見
排除所見
1
.血iNa
s130mEq
/l
2
.低浸透圧血症
3
.尿中Na
>20mEq
4
.尿浸透圧>血漿浸透圧
5
.水制限で血圧低下なく
低Na
血症改善
1
.脱水
2
.浮腫・腹水
3
.腎機能低下
4
.副腎皮質機能低下
れない.血漿レニン活性は軽度に上昇することは
あるものの,
5ng
/ml
/h
を上回ることはまれであ
る.肝硬変症やうっ血性心不全など浮腫を伴う低
Na
血症はSIADH
とは区別される病態で,血漿レ
ニン活性は上昇しており尿中Na
排泄量は1
日20
mEq
を下回っていることが多い.
(5
)治療
患者が水中毒様の強度の急性低Na
血症にある
かまたは慢性に持続しているのか,また低Na
血症
を来した原因はなにかによって,治療の選択が異
なる
①原因による治療選択
①Na
欠乏型‘
十分なNa
の補充が基本とな
る.高張食塩水の点滴静脈注射や経口摂取可能な
症例では経口的に1
日200mEq
以上を投与す
る.
摂食不能,下痢,昭吐などによる尿中Na
排泄量低
下を伴うNa
欠乏型低Na
血症ではこのような食塩
補充により低Na
血症は著しく改善する.一方,副
腎皮質機能低下症など腎におけるNa
保持機構の
障害により尿中へのNa
喪失を伴って発症した低
Na
血症では食塩の補充のみでは尿中Na
排泄量の
上昇を来して血清Na
濃度を持続的に正常域に維
持することは困難である.その治療には食塩補充
と平行して通常,副腎皮質ステロイド薬ヒドロコ
ルチゾンや合成鉱質コルチコイド薬酢酸フルドロ
コルチゾン(フロリネフ)が投与される.
①水過剰型、
SJADH
の治療はその原因に関
わりなく水摂取の制限が有効である.
また,食塩
は十分に補充する.高令者では,水制限による低
Na
血症の改善と共に脱水,虚脱が出現することが
ありしばしば腎のNa
保持力の低下が示唆される,
その場合には酢酸フルドロコルチゾンの投与が有
効である一SIADH
うち頭部外傷など中枢神経系
疾患に由来する低Na
血症では,抗座李薬ジフェニ
(37
日本内科学会雑誌
第79
第4
号ー平成2
年4
月10
460
ルヒダントインの投与で,継続的な治療が可能で
ある.浮腫を伴う低Na
血症では,水利尿促進効果
の強いフロセミド薬の投与,低アルブミン血症の
ある症例ではアルブミン輸液による有効循環血液
量の維持などの処置が行われる.
②急性低Na
血症の治療
ll0mEqH
を下回る強い低Na
血症を伴った水
中毒状態はSTADH
で認められ昏睡の原因ともな
る.この状態で血清Na
濃度を速やかに上昇させる
にはフロセミドの静脈内注射を行い,尿中Na
排泄
量を連続して測定しそれと等量のNa
を2
.5
%食塩
水の静脈内点滴投与で補充する,この処置により,
血清Na
濃度は12
時間以内に10mEq
/l
の速度で上
昇させることが可能である.
強い低Na
血症をもつ症例で,急速に血清Na
度を正常化させると不可逆的な中枢神経障害とし
て橋中心髄鞘溶解を来すことが報告されており,
低Na
血症が持続することよりはむしろ急速な血
清Na
濃度の上昇が中枢神経障害を増悪させるこ
とが強調されている.
この機序による橋中心髄鞘
溶解については頻度の高い危険な病態であるとす
る考えと,実際にその障害が起こる臨床的証拠は
乏しいとする意見とがあり,強度の低Na
血症の適
切な是正速度については,現時点で意見の一致が
見られていない.Na
濃度が125mEq
/1
に至るまで
はフロセミドと高張食塩水の投与により比較的速
やかな矯正をはかり,以後は水制限などのより緩
やかな手技,こ切り替えて血清Na
濃度の上昇をは
かることが基本となろう.
2
)高Na
血症
血清Na
濃度が160mEq
/
I
を上回ると,傾眠,失
見当識などの意識障害が及とめられる.
この状態
では口渇感の自覚や嚥下の障害が認められ,摂水
低下があって高Na
血症が持続しやすいが,高Na
血症のみが原因で昏睡にまで至ることは少ない.
(1
)原因
高Na
血症には,急性脱水によるものと下垂体後
葉系の機能低下による慢性持続性高Na
血症とが
ある.急性高Na
血症は高令者にしばしば見られ,
消化器系疾患による咽吐,下痢やアシドーシスに
よる過呼吸があるときに,
また糖尿病の高血糖に
伴った浸透圧利尿など,こ由来する脱水状態で認め
られる.非ケトン性高浸透圧性昏睡はしばしば高
日本内科学会雑誌
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年4
月10
(38
)
Na
血症を伴う.一方,持続性高Na
血症は視床下部
―下垂体後葉系の器質的障害によって,浸透圧刺
激に反応するADH
分泌とロ渇中枢機能の二つの
低下によって引き起こされる.本態性高Na
血症と
もよばれ,胚芽腫,頭蓋咽頭腫,ヒスチオサイトー
シスx
,サルコイ
ドーシスあるいは第三脳室周辺
の外科的処置などにおいてみられることがある
(表4
).
(2
)病態
血清のNa
に対して水が相対的に欠乏した状態
で,全身の脱水が認められる.咽吐や下痢では,
水分の消化管よりの喪失があり,
また糖尿病にお
ける浸透圧利尿では尿中へのNa
を上回る水の喪
失が認められる.血液は濃縮に傾き,血清Na
は上
昇する.視床下部ー下垂体後葉系の機能障害では,
血奨浸透圧上昇に反応する正常のADH
分泌が障
害され尿崩症状態となる.視床下部の腫瘍や慢性
炎症で口渇中枢が同時に障害されると飲水量は低
下し高Na
血症をともなう脱水状態となる.またこ
れと類似した病態としてADH
分泌に対する浸透
圧闘値の上昇をきたし,脱水が顕著でないのに高
Na
血症を招くことがある.
(3
)症状
皮膚,粘膜の乾燥,血圧や脈拍緊張の低下など
循環血液量低下の所見がある.下垂体後葉機能低
下のある症例では,尿浸透圧は300
-
400m0sm
/
1
に止まるのに対し,消化管からの水喪失が主因を
なす場合には尿浸透圧は800m0sm
/
1
こえる.高
Na
血症における意識障害は,昏睡に至ることはま
れであるものの失見当識や傾眠がみとめられ,
渇感の訴えは強くない場合が多い.脳波の異常と
してびまん性徐波を認める,
(4
)診断
臨床検査により血清Na
濃度が160mEq
!をこ
えることで診断される.ヘマトクリット値,血清
尿素窒素,クレアチニソなどの上昇が認められる.
血清K
濃度はむしろ低下していることが多い.腎
糸球体濾過量の低下を認めそのためADH
欠損下
においても血漿浸透圧をこえる尿濃縮が認められ
る.現病歴から咽吐,下痢,飲水不能などの脱水
を招く水分喪失の経過がなかったかどうかを明ら
かにする.
また,下垂体後葉機能低下を示す症例
では視床下部症状として体温低下,肥満またはや
461
表4
.高Na
血症を来す病態
1
.急性高Na
血症:低張補液反応型
(1
)摂水低下
意識障害:脳血管障害,脳腫瘍,脳炎
口渇中枢障害:視床下部障害
(腫瘍,サルコイ
ドーシス)
嚥下障害
高令者
(2
、腎外性水喪失
咽吐
下痢
発汗過多
過呼吸
高熱作業
(3
)腎性水喪失
浸透圧利尿:糖尿病性昏睡.マニトール輸液
2
.慢性高Na
血症:低張補液不応型
(1
)浸透圧受容系障害
尿崩症一意識障害合併
尿崩症一口渇中枢障害合併
浸透圧聞値高位設定
尿崩症一嚥下障害
(2
)腎性水喪失ー摂水低下
腎性尿崩症ー摂水低下合併
せ,女子では無月経などの前駆症状をみることが
多い.頭部CT
などの画像診断は病巣の確定に有力
である.下垂体後葉機能低下症の診断には通常,
水制限試験や高張食塩水試験が行われるが,高Na
血症の存在下ではすでに下垂体後葉系に十分な浸
透圧刺激が加わっているのでさらに負荷を加える
ことは通常行われない.高Na
血症の存在下で尿浸
透圧が400m0sm
/
1
を下回っていれば下垂体後葉
機能低下症が疑われる.
この状態で水溶性ピト
レッシン10
単位筋肉注射によるADH
感受性試験
を行い,尿浸透圧が600m0sm1
1
をこえて感受性が
維持されていることが示唆されれば下垂体後葉機
能低下症が診断される.また血中ADH
濃度測定も
高Na
血症の存在下では有用であり,下垂体後葉機
能低下症では血奨浸透圧に比してADH
濃度は相
対的に低値に止まるのに対し,それ以外の原因に
よる脱水があるときにはlopg
/ml
をこえて著増す
(5
)治療
高Na
血症の治療はその原因にかかわらずまず
十分な量の水を経口的または非経口的に投与す
る.水を非経口的に投与するときには通常5
%ブ
ドウ糖が用いられるが1
日Si
をこえると溶質負荷
過剰となることに留意する必要がある.生理食塩
水はNa
負荷量が大となり適切でないことが多い.
消化管からの水喪失による急性の高Na
血症は,十
分な水補充により速やかに軽快する.
下垂体後葉機能低下症に由来する高Na
血症で
は,補充した水が直ちに低張尿として排泄され多
尿を招くのみで血清Na
濃度は正常化しない.その
場合には,尿崩症に準じて加療され,デスモプレ
シン点鼻薬の投与が有用である.意識障害がある
とき,デスモプレシン投与後に大量の輸液が行わ
れると逆に低Na
血症に陥り水中毒となることも
あるので留意する必要がある.意識障害は血清Na
濃度の正常化とともに速やかに改善する.
2
.
Ca
代謝異常
Ca
は神経細胞の興奮性に関連が深く,高Ca
症,低Ca
血症いずれも意識障害の原因となる.
1
)低Ca
血症
(1
)原因
意識障害を伴う高度の低Ca
血症は副甲状腺機
能低下症,偽性副甲状腺機能低下症,慢性腎不全,
ビタミンD
欠乏症,低Mg
血症などにおいて認めら
れる(表5
).
(2
)症状
神経,筋肉の被刺激性が高まり筋肉の座李を伴
う.Chvostek
あるいはTrousseau
徴候
が認められ
る.より高度の低Ca
血症では意識障害と共に全身
座李を伴うテタニー発作が起こる.副甲状腺機能
低下または副甲状腺ホルモン(PTH
)の作用の低
下を示す例では高リン血症,
リン再吸収率(%
TRP
)の亢進がある.心電図上QT
時間の延長があ
り脳波では2
-5c
/s
の徐波が見られる.
(3
)診断
低Ca
血症の診断は,
日常の血清電解質検査で下
される.低蛋白血症をもつ症例では,血清アルプ
ミン値により補正することが必要である.低Ca
症に高リン血症を伴う症例では副甲状腺機能低下
症と偽性副甲状腺機能低下症の鑑別に副甲状腺ホ
ルモン(PTH
)負荷に対する尿中リンおよびサイ
クリックAMP
の反応性を検査するEllsworth
(39
日本内科学会雑誌
第79
第4
号・平成2
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月I0
462
表5
.低Ca
血症を来す病態
表6
.高Ca
血症を来す病態
1
.副甲状腺機能低下症
特発性副甲状腺機能低下症
術後性副甲状腺機能低下症
偽性副甲状腺機能低下症
低マグネシウム血症
2
.腎疾患
慢性腎不全
3
.消化管疾患
急性膵炎
脂肪性下痢
4
ビタミンD
欠乏症
Howard
試験
が有用である.
(4
)治療
テタニー発作と意識障害を伴う著しい低Ca
症に対しては,塩化カルシウムの静脈注射を行う.
副甲状腺機能低下症,偽性副甲状腺機能低下症あ
るいは慢性腎不全に伴う持続性の低Ca
血症では
1,
25
(OH
)2D3
を投与する.
2
)高Ca
血症
(1
)原因
原発性副甲状腺機能亢進症,サルコイドーシス,
悪性腫瘍,ビタミンD
中毒などにおいてみられる.
副甲状腺ホルモン過剰症に伴う低リン血症や骨か
らのCa
動員増加によって発来する.高Ca
血症では
腎の濃縮力が著しく低下し,脱水が助長され高Ca
血症はさらに増強される(表6
).
(2
)症状
血清Ca
濃度がl6mg
/dl
をこえると意識水準の
低下がみられ,
さらにCa
濃度が高まると昏睡に至
ることもある‘脳波ではびまん性徐波がみられる.
腎のADH
感受性が低下しADH
不応性多尿と脱水
が出現する.ヘマトクリット値,血漿蛋白および
血清尿素窒素は高値を示す.心電図ではQT
の短
縮がみられ,また脳波では高振幅の徐波を認める.
著しい高Ca
血症の持続は時に予後不良の転帰を
とることがある.
(3
)診断
血清Ca
濃度の測定により診断される,原発性副
甲状腺機能亢進症,
ビタミンD
過剰症では低リン
血症を認めるのに対し,悪性腫瘍骨転移による高
Ca
血症では血清リンも上昇する.
1
,副甲状腺機能亢進症
原発性副甲状腺機能冗進症:腺腫,多発性内分泌
腺腫症,癌,過形成
続発性副甲状腺機能亢進症:慢性腎不全
2
.
ビタミンD
中毒
3
.サルコイ
ドーシス
4
.悪性腫瘍
異所性PTH
様物質産生腫瘍
異所性非PTH
様物質産生腫瘍
悪性腫瘍骨転移
多発性骨髄腫
5
,高Ca
血症を増強する病態
副腎皮質機能低下症
甲状腺機能亢進症
サイ7
ザイド薬服用
ビタミンA
中毒
低りン血症
(4
)治療
高Ca
血症は多尿に由来する脱水を招き血液の
濃縮を来す一方,腎の糸球体炉過量を低下させて
腎よりのCa
排泄を低下させる.腎疾患以外の高Ca
血症の治療は原因に関わりなく,数リットルに及
ぶ生理食塩水輸液が必要である.
これに加えて利
尿薬フロセミドの投与も有効である.
またサイロ
カルチトニン薬は高Ca
血症の特異的治療薬とし
て有用である,より高度の高Ca
血症においては抗
生物質ミスラマインンも強力な血清Ca
低下作用
のあることが知られている.
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日本内科学会雑誌
第79
第4
号ー平成2
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月10
(40
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